フリーミアムブームを巻き起こした『フリー』を発行したNHK出版が、その続編とも言える『シェア~<共有>からビジネスを生み出す新戦略』を出版しました。この本は、産業革命以降の所有と消費を中心としたハイパー消費主義の問題が明らかになった今、所有よりも利用すること、他者と共有すること、コミュニティへのコミットメントによって自分たちのアイデンティティを定義するコラボ消費の台頭を多くの事例を使って論じた一冊です。
オンラインコミュニティで共有されるものは、単にモノだけでなく、時間、スペース、スキルなど非物質的なものにまで広がっている事例が数多く紹介されています。これまでは地域レベルでしか発展し得なかったものが、インターネットのテクノロジーの発達により共有する相手はグローバルに拡大していく可能性が示されています。『フリー』では細部まで描かれていなかったオンラインコミュニティでの評判や評価が、コラボ消費では大きな意味を持ち、擬似貨幣として流通する可能性にまで触れています。
『シェア』ではコラボ消費の三つのモデルを提示しています。
プロダクト=サービス・システム
「ある製品(プロダクト)を100%所有しなくても、その製品から受けたサービスーーつまり利用した分ーーにお金を使うという、「所有より利用」の考え方に、バックグラウンドの違う様々な年代の人々が、ますます傾いている。このコンセプトがプロダクト=サービス・システム(PSS)の基本であり、このモデルが個人の私的所有を前提に成り立ってきたこれまでの産業を破壊しつつある」(p.101)。
再分配市場
「ソーシャルネットワークをとおして、中古品や私有物を、必要とされていない場所から必要とされるところ、また必要とする人に配り直す」(p.102)。
コラボ的ライフスタイル
「シェアやスワップ、物々交換の対象になるのは、自動車や自転車や中古品といった目にみえるものだけではない。同じような目的をもつ人たちが集まり、時間や空間、技術やお金といった、目に見えにくい資産を共有するーーこれがコラボ的ライフスタイルモデルだ」。(p.103)
『シェア』では北米で多くの共有サイト・サービスが成功した要因を「成功事例に共通する四つの原則」として挙げています。
- クリティカル・マス
- 余剰キャパシティ
- 共有資源の尊重
- 他者への信頼
しかし、北米のサイトの動向をそのまま借用して日本に展開しても決してうまくいかないことを『シェア』は示していると思います。米国で流行ったものを導入する傾向がこの10年ほど続いていますが(最近ではグルーポン系サイトなど)、単に「成功事例に共通する四つの原則」にあてはまれば日本でも成功するというわけではありません。
コミュニティ系のサービスを私も運営してきましたが、経験上これらの原則に加えてコミュニティへの
(1)継続的なコミットメント(2)理解(3)愛着(4)熱意がなければユーザーを引き止めることはできないでしょう。
コラボ消費において、どのようなサービスが求められているのか、またサービスを運営する企業はそこの場所でどのような役割を担うべきなのか?ソーシャル時代のユーザーとサービス提供者との新しい関係について考えるヒントを得られると思います。
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