2010年5月22日土曜日

『「情報創造」の技術』 : パワポを今すぐアンインストールすべきこれだけの理由

「情報創造」の技術 (光文社新書)
「情報創造」の技術 (光文社新書)
光文社  2010-05-18
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「下流社会」「ファスト風土」などのキーワードを生み出した三浦展による情報創造のテクニックをまとめた1冊です。

実際に多くの本を送り出してきた著者のテクニックを紹介したもので、「問題の発見⇒情報収集⇒情報収集⇒アウトプット」という流れを口語調でわかりやすく説明してくれています。

いわゆる「尖った」議論を生産し続ける著者だけに、真似できない方法を採用しているのかと思いきや、意外や意外、その基本となる考えはとてもベーシックなものでした。


この本の主題は「情報創造」。(情報創造を「イノベーションinnovation」と捉えるとわかりやすいと思います)

与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら新しい価値を創造する主体になることの大切さを説いています。

単なる情報収集・情報整理のノウハウ本ではないところに、この本の存在意義があります。
「これからの時代は情報の収集、整理ではなく、創造の力が問われる時代だと思います。パソコン、インターネットの普及によって、知識を身につけるだけなら非常に簡単にできる。(中略)情報の収集・整理だけなら、高校生でもかなりできるのです。(p.209)」
シンプルだけど的を射た一文ではないでしょうか。
巷に溢れている「情報整理術」はあくまでも情報創造のための「前提」であって、それが目的ではない。このブログの問題意識と共通していると感じます。

自分の視点や価値観から物事を見て、オリジナルな新しい価値をつくることがこれからの時代に必須のスキルというのは納得が行きます。

その中で特に合点がいったのは、パワーポイント=パワポについての彼の考え方です。
パワポが情報創造にとって大きな弊害になる可能性を指摘しています。
昼間に集めた資料を、夕方五時から「さあ、そろそろきれいな報告書を仕上げなきゃ」とパワポづくりが始まる。そしてパワポの作業にはまって深夜まで残業してしまう。私はそれは間違いだと思います。なによりも、内容を考えること、情報を創造することに社員の能力を集中させるべきです。これは部下を使う上司の問題でもありますね。(p.31)
まさにそのとおりだと思います。
新しい価値やアイデアをカタチにするまえに、パワーポイントを開いてもイノベーションは生まれないのは言うまでもないでしょう。

それに関連して、私も同様の思いに至った経験があります。

とあるパートナーにコンサルを依頼した時のこと。このとき求めていたのは、目的達成のために頭を使うこと・アイデアを出すことでした。

コンサルタントの企業の担当者には、定例会議で課題と解決案を出してもらうことになっていました。

目的は自分たちのプロダクトを多くの人に使ってもらい、より良い経験をしてもらうことです。定例会議はそのゴールに近づくために行われるものであり、PowerPointで作られた資料にうつむきながら目を通すことがその目的ではありません。ましてや、その資料が結果を出せないことの言い訳に使われていたら、「その時間と労力をもっと結果を出すことに使えよ」となるのは当然だと思います。

私たちは彼らを信頼してパートナーに選んだわけです。それは、ビジネスというクールな契約関係でありながらも、運命をともにする仲間として認めたことでもあります。

このとき目的と手段が混同されていたのです。そこで私たちは、定例会議の場で紙の資料を配布することを禁止にして、事前にテキストベースでメールで課題を箇条書きして送ってもらうというルールを作りました。その方が、彼らの手間も省けますし、紙資源の省力化にも貢献します(人にも地球にも優しい、はず)。分かりづらい部分は、実際に会ったときに質問すればいい。

きれいな資料もプレゼン段階では必要かもしれませんが、運命をともにする仲間には不要です。見た目ばかり良くてキレイ事ばかりを並び立てる人よりも、不器用だけれど本音で語り合える人と友達になりたいと思うのと同じです。そういう人と飲んだり食事をしたりしている時の方が、得るものは大きいと感じるのは僕だけでしょうか?

もちろん、皆さんがコンサルの立場にある場合、自分からクライアントに対して「資料作りません」と言うのはちょっと問題でしょう。

私が提案したいのは、皆さんがコンサルを受ける立場で、会社の予算を無駄遣いすることに情熱を傾けるのでなく、あくまで目的達成を熱望するのであるならば、彼らにもっと頭を使ってもらうこと、そして一緒に考えることに時間を費やしてもらった方が生産的だということです。

彼らは資料を作るはずの時間で、同僚と飲みに行くかもしれませんし、彼氏・彼女とデートの約束をするかもしれません。でも、本当のアイデアは、パソコンとにらめっこしながら出てくるものでありません。心と体がリラックスした状態でふっと降りてくるアイデアが結果を生むケースも多いものです(もちろん、飲み歩いてばかりいて、サボっているような人たちは論外ですが・・・でも、あなたがその人達をパートナーとして選んだのであれば、彼らをビジネスパーソンとして信頼しているから選んだわけでしょう)。

結果がでないと思い悩むことがあるのであれば、お互いの関係や仕事のやり方をみつめ直すのも大切な作業です。「きれいな資料」という見た目=表面的な物事ではなく、中身を充実させること。それが成功のための近道です。